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1917年に誕生し、1919年に発売されたCARTIER (カルティエ)を代表する名品腕時計TANK(タンク)は、戦車のデザインを彷彿させる洗練されたラインと、ケースの一部を形成するストラップアタッチメントでセンセーションを巻き起こします。その後、文字盤やローマ数字、線路型分目盛りといったデザインはそのままに、時代に沿ってタンクを再解釈。1989年の「タンク アメリカン」、1996年「タンク フランセーズ」、2012年「タンク アングレーズ」など、タンクは1世紀以上にわたってカルティエのシンボルとなりました。今回はカルティエの身につける芸術品、タンクの持つ魅力についてご紹介していきます。
カルティエは、ルイ=フランソワ・カルティエ(1819-1904)が1847年に創業したフランスの高級宝飾メゾン。1853年にはパリにジュエリーブティックを開き、そのわずか6年後にはフランス皇帝ナポレオン3世の皇后ウジェニーを顧客としました。3代目であり、孫のルイ・カルティエの時代にまると世界的なジュエラーとして名を響かせ、1939年までに15カ国から王室御用達の特許状を受けるに至りました。現在は、これらのうち9王室の紋章がパリ本店の入り口左右に掲げられています。
(参照:VOGUE, The Cartier Tank through history, Anne Sophie Mallrd. 12 Dec, 2012, https://www.vogue.fr/jewelry/read/diaporama/the-cartier-tank-through-history/12258)
カルティエは先進的な設計思想を発揮し、時計製造の歴史を語る上で欠かせないブランドでもあります。そのきっかけとなったのが三代目のルイ・カルティエ。彼が経営に携わるようになって以来、独自のデザインに取り組み、時計制作に注力してきました。しかし、それ以前も腕時計をつくっており、カルティエ初の腕時計として登場するのは1888年のことです。ブレスレットにダイヤモンドを配した女性用のブレスレットウオッチで、懐中時計が主流だった当時、女性にとって時計は美しきジュエリーであり、現在のような腕時計とは異なった特別なスタイルを持っていました。こうしたジュエラーとして培ってきた金属加工の技術はカルティエの強みといえます。たとえば、当時のジュエリーの台座はシルバーが使われていましたが、扱いやすさの反面、酸化により年月が経つと黒く変色してしまうため、見栄えが悪くなるという弱点がありました。そこでカルティエが他社に先駆け、1900年に採用したのがプラチナでした。銀の融点は961.93℃、金は1064℃に対して、プラチナは1772℃と高く、そのため成形には高い技術が必要になりました。この技術は宝飾時計の製作でも使われており、またジュエリー製作で培われた金属加工技術力を時計製造でも発揮され、1909年、カルティエは一枚の板材を折り曲げて溶接しバックルに成形している、「デプロワイヤント バックル」における最初の特許を登録しました。
(参照:VOGUE, The Cartier Tank through history, Anne Sophie Mallrd. 12 Dec, 2012, https://www.vogue.fr/jewelry/read/diaporama/the-cartier-tank-through-history/12258)
タンクの形状のアイディアを生んだのは戦車(タンク)でした。第1次世界大戦が続いていた1917年、ルノーFT-17軽戦車が地上を這いすすむその年に、ブランド創業者であるルイ=フランソワ・カルティエの孫、ルイ・カルティエは戦車のフォルムから着想を得て、一つの腕時計をつくりあげました。ルイ・カルティエは上空から見た戦車の形状をスケッチしました。四角形のケースの四隅に突起をつけてカタピラを表現し、ルノー戦車の外観を意匠化したのです。それから100年を経た今でも、タンクは戦車からインスピレーションを得たそのデザインの根本は変えず、不朽の定番であり続けています。
(参照: The Jewellery Editor, Cartier Tank watch: 100 years on the frontline of style, Rebecca Doulton, 17 Aug, 2017, http://www.thejewelleryeditor.com/watches/article/cartier-tank-watch-history-100-years-of-style/)
1919年の発売と同時に、タンクは“モダニティの象徴”として瞬く間に人々を魅了しました。その前衛的なデザインに先鞭をつけたのは、世界各国の王侯貴族や富裕層、著名人らのセレブレティでした。最先端のファッションを好む彼らにとって、タンクの洗練された佇まいは最良のパートナーとなり、数々のエピソードを残しています。「時間を見るためにタンクをつけているわけじゃない。実は巻き上げたことがないんだ。私がタンクを身に着けるのは、身に着けなければならない時計だからだよ。」1973年のインタビューでアンディ・ウォーホルが残したこの言葉は、彼のスタイルにとってタンクがいかに重要な存在であったかを語っています。同じように、ファッション写真の巨匠アーヴィング・ペンが撮り下ろしたタンクを身につけているイブ・サンローランの色褪せないポートレイトは、無類と言っても過言ではないタンクとファッションとの親和性の高さを証明しています。時代や流行に寄り添いながら少しずつ変化するタンクのフォルムは、ジャンルに捉われないスタイルを描き続け、今日では男女問わず愛される“アイコン”としての地位を不動のものにしています。
(参照: GQ, 誕生100年超えのアイコン時計! カルティエの「タンク」が愛される理由, 23. 7 . 2019, https://www.gqjapan.jp/watches/article/20190723-cartier-tank-100-years)
カルティエのタンクは、エレガントさと普遍性、そして機能美をあわせ持っています。視認性の高い放射状にデフォルメされたローマ数字のインデックスと剣型針が用いられており、これは一目でカルティエとわかるアイデンティティでもあります。装着感のよいケースフォルムも秀逸さを演出しており、またリュウズのサファイアのカボションの美しさからはカルティエのジュエラーとしての美意識がうかがえます。気品漂うフランケ模様のギヨシェ仕上げや、ケースの立体感を生むサテン仕上げからも美意識の高さを感じさせます。ディテールの処理は全体の印象を左右し、手間を掛けるほどに芸術的価値は高まってゆくことを証明してみせた時計がカルティエのタンクなのです。
(参照: LIFE STYLE ASIA, This is why Cartier’s timeless and romantic creations remain an icon today, 25 Feb, 2021, https://www.lifestyleasia.com/kl/style/jewellery/cartier-icons-jewellery-watches/)
カルティエの時計が証明しているものは、優れた技巧と美的感覚だけではないのです。実用的な腕時計の祖となった戦車を意味するタンクは、コレクションのモチーフやネーミングにもフレンチメゾンらしいエスプリや遊び心が漂っています。カルティエは由緒正しき名門ブランドですが、伝統や歴史に縛られることのない洒落の効いた姿勢は彼らの製品作りにも生かされているのです。
(参照: LIFE STYLE ASIA, This is why Cartier’s timeless and romantic creations remain an icon today, 25 Feb, 2021, https://www.lifestyleasia.com/kl/style/jewellery/cartier-icons-jewellery-watches/)
1990年代後半以降、タンクは造形を少しずつ変えただけでなく、そのバリエーションを大きく増やしました。進化をもたらしたのは最新の工作機械の影響です。こういった変化を象徴するのが、例えば96年の「タンク フランセーズ」であり、あるいは2000年の「コレクション プリヴェ カルティエ パリ」でした。以降のタンクは、「タンク ルイ カルティエ」に見られるように、本質的な意味での原点回帰を果たしました。カルティエのエスプリを宿すタンクは、流行と対話することを決して怠りません。それゆえ、いつの時代もモダンであり続けるため、ドレスアップからカジュアルまで幅広い着こなしに対応できるのです。普遍的なデザインコンセプトと時代の変化に対する柔軟な姿勢が、100年以上もの間、タンクが人々から’スタイルを描く身につける芸術品’と支持され続けている理由なのです。
(参照:EVERMADE, 進化する定番。カルティエ「タンク」が100年以上愛される理由について 【いま選ぶべき鉄板ウォッチ】, 29 Dec, 2019, https://evermade.jp/style/archives/10084)
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