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毎年コレクションを発表している数あるラグジュアリーブランドの中でも、そのファッションショーの独創性と奇抜さが際立っているのがトム・ブラウンです。しかし、トム・ブラウンの顧客なら誰もが知っているように、風変わりで奇抜なショーが表す世界は、実際に世界中の200以上ものブティックに並ぶ、トムブランのアイコン商品のストライプのカーディガンやボタンダウンのシャツとはほとんど類似点を持たないのです。そこで今回は、トム・ブラウンのファッションショーへの哲学や実際のショーの特徴を見ていきたいと思います。
デザイナーのThom Browne(トム・ブラウン)は、1965年アメリカ生まれ。ノートルダム大学で経営学を学んだ後、俳優を目指しLAへ渡ります。オーディションや広告撮影に参加するうちにヴィンテージのテーラードスーツに魅了された彼は、1997年にニューヨークへ移住し、ファッション界へ転身し、Giorgio Armani(ジョルジオ・アルマーニ)のショップスタッフとして働き始めます。その後、Polo Ralph Lauren(ポロ・ラルフ・ローレン)が所有するブランドClub Monako(クラブ・モナコ)のチームに才能を見出され、デザイナーとしてのキャリアをスタートさせます。そして2001年、ついに自身のブランドを設立し、以来、アメリカン・トラディショナルスタイルを軸としたメンズ&レディスウエアを展開しています。
ブランド設立後、2006年と2013年にアメリカファッション協議会メンズデザイナーオブザイヤーを獲得するなど数々の賞を受賞している、アメリカを代表するファッションデザイナーです。現在はメンズウエアだけでなく、レディスウエアも手がけ、2006年からブルックス・ブラザーズと2008年からはモンクレールとコラボレーションを行うなど幅広く活躍しています。トム・ブラウンは自らのファッションスタイルを崩しません。ほとんどのときにロールアップしたグレーのスーツにグレーか黒のカーディガン、ボタンダウンシャツ、ウイングチップシューズを合わせて着用しています。彼にとってスーツとはユニフォームのようなもので、またグレーはタイムレスでとてもリッチなカラーであると説明しています。変わらないスタイルを持つトム・ブラウンだからこそ、そのスタイルに多くの人は憧れるのです。
(参照: COGGLES|LIFE, THOM BROWNE | THE BRAND WITH THE FOUR STRIPES, https://www.coggles.com/life/fashion/thom-browne-the-brand-with-the-four-stripes/)
トム・ブラウンは自身が俳優を目指していたこともあり、長い間演劇に傾倒してきました。その影響もあり、彼のランウェイでは、おしろいを付けたビクトリア朝のゾンビの花嫁や、熱帯地域の鳥のような奇妙でおどけた恰好のモデルをビーチにいるサーファー達の隣に演出したりと、いつも観客を楽しませていました。しかし、NYからパリに発表の場を移した2018SSのウィメンズコレクションは、パリデビューということもあり、彼はさらにそれを強調してみせたのです。チューインガムの塊にも似ている汎甲殻類生物、半分宇宙飛行士のようなユニークな生き物が、映画『リトルマーメイド』のサウンドトラックが流れる中ゲストを出迎え、2人のモデルが操る巨大なチュールのユニコーンが現れる様子は、すぐにファッション界で話題を呼びました。その2018年のショーの際に彼は、「ショーは概念的でなければならないと思うんだ。ショーは物語を伝えるべきであり、もっと興味深い不自然なものを作り出すべきだと思っている」とメディアに答えています。つまり、トム・ブラウンにとってファッションショーは単に服を見せる場ではなく、その服につながる物語を表現する場なのです。
(VOGUE: トム・ブラウンが告白。奇抜な演出の裏側にある服づくりへの情熱, https://www.vogue.co.jp/fashion/interview/2017-10-thom-browne)
トム・ブラウンはファッションショーで表現する物語のインスピレーションについて、映画だったり人から感じたりと、そのときどきのコレクションによって着想源は異なると語っています。しかし、彼にとって最も重要なことは、ショーそのものにストーリーがあるということなのです。実際に彼は”ファッションショーを通して、人がその後で何か印象に残るところがあるような、楽しさやエンターテインメントの要素を伝えたい”と語っています。
(VOGUE: トム・ブラウンが告白。奇抜な演出の裏側にある服づくりへの情熱, https://www.vogue.co.jp/fashion/interview/2017-10-thom-browne)
彼のファッションショーはファンタジーに溢れるエンターテイメント的要素が強く、一見すると陽気なものに見えますが、彼の服作りには一切のジョークがありません。トム・ブラウンは服がどのように作られ、どんな品質に見られるかについて、非常に真剣に向き合い、取り組んでいるデザイナーだと言われています。それは彼がファッションの本質が、まさにそこにあると信じているからです。オーダーメイドでスーツを仕立てていた初期の時代には、すでに米国最高峰のテーラー、マーティングリーンフィールド製にこだわっており、当時からクオリティ面で彼の服は申し分のないものでした。その品質へのこだわりは今も変わっておらず、どんなに奇をてらったデザインであっても細部まで丁寧かつ完璧に仕上げられ、服作りへの徹底した美学と情熱を貫いています。全身全霊を込めたシアトリカルなコレクションが、彼の本質である揺るぎないテーラードスタイルに華を添え、常に鮮度のあるものとして保たれているのです。
(参照:BAZAA, トム ブラウンが思い描く、ファッション、ショー、テーラリングの明るい未来, https://www.harpersbazaar.com/jp/fashion/fashion-column/a97412/fin-interview-with-thom-browne-180515-hb/)
このコレクションはトム・ブラウンがコレクション発表場所を、ニューヨークからパリに移した最初のファッションショーでもありました。ショー会場はパリ19区にある、オスカーニーマイヤー設計のフランス共産党本部。白いドーム型の外観と緑色の絨毯が印象的な建物で、トム・ブラウン本人が「どうしてもここでショーをしたい」と願い、場所ありきで内容を構成したというエピソードがあります。有機的な曲線美を活かした、近未来を想像させるような建物の造りが特長です。トム・ブラウンの演出の巧みさは以前から話題になっていましたが、このショーはまさに「2001年宇宙の旅」で、この場所にぴったりのテーマでした。「美しき青きドナウ」のBGMとともに出てきたのは、宇宙服を着たモデルたち。宇宙服を着たまま観客が待つ円形の会議場を行進した後、廊下に整列して一斉に宇宙服を脱いでいきます。そして新作に身を包んだモデルが現れてキャットウォークを歩きます。「これがトム・ブラウンだ」と言わんばかりに、全ルックをジャケット×ショートパンツ×ハイソックスで統一する潔さ。チェックやストライプ、刺繍など鮮やかな色柄バリエーションで魅せ、華やかさを表現しています。トム・ブラウンらしいアイビールックと飛び抜けた芸術性、ついニヤリとしてしまうユーモアを高い次元で融合させた素晴らしいコレクションとなりました。
(参照:THOM BROWNE, MENS SS 2011 RUNWAY, https://www.thombrowne.com/hk/collection/mens-s-s-2011-runway)
幻想的なショーを待ちわびる観客の前に用意されたのは、人工の雪に覆われた不思議な森の一角。ゲレンデから遠く迷い込んだその場所は、あたたかくて愛情あふれる究極のジェンダーレスな森でした。まずは赤いキリンを先導役に、動物のマスクを被った7人の妖精たちが登場し、キリンがキャットウォークを一周して真ん中に置かれた扉の前に立つと、青いカバと白いゾウが厳かに扉を開けました。さあ、素敵な物語の始まりです。レースのヘッドピースで目もとを覆った男女のペアが着ていたルックはまったく一緒で、メンズやレディースなどの概念はそもそもないことを意味していました。トレードマークのフランネルスーツに、あらゆる角度から独特なアレンジとひねりを加えたこのシーズンは、男女の双子の登校服の新しい提案を試み、今までどうしてなかったのか不思議なくらい魅力的であり、足もとはみんな、手編み風の靴下を見せたレースアップブーツ、手には森の動物たちのモチーフのバッグを持っていました。ミディ丈のボックスプリーツのツイードスカートやクロップドパンツ。グレーのパンツを巻きつけたホルターネックのトップスに合わせたのは、ネイビーのブレザーを変形させた巻きスカートで、実に独特のスタイルで、だまし絵スタイルもあったけれど、今回は特にコートに注目が集まりました。ジャケットやボトムスと同じデザインのテイストを取り入れたコートは、ユーモアたっぷりでトム・ブラウンらしく、何よりも、こんな着こなしをしてみたいとショーを見た人々に思わせました。
(参照:THOM BROWNE, FALL WINTER 2020 RUNWAY, https://www.thombrowne.com/hk/collection/fall-winter-2020-runway)
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