アパレル・ライフスタイル業界での転職にまつわる豆知識
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1978年、創設者ブルネロ・クチネリによってアパレルブランドBURUNELLO CUCINELLIは小規模のニット会社として設立されました。ブルネロ・クチネリは、当時それまでになかった女性向けの色鮮やかなカシミヤニットを作ったことをきっかけに、そのブランド名を世界に広めていくことになりました。
その後1985年に、彼の愛してやまない妻の故郷でもある、イタリア中部ウンブリア州ペルージャ県の自然溢れる小さな美しい村、ソロメオ村に本社を置きました。そしてBURUNELLO CUCINELLIはラグジュアリーブランドして成長を続け、今ではニットウェアだけでなく女性向け、男性向けのトータルルックを毎シーズン発表しています。ブランドが大きく成長した今も、BURUNELLO CUCINELLIの原点であるソロメオ村では、熟練された技術を持つ職人の手により、ブランドを象徴する最高級のカシミヤのニットが丁寧に一つ一つ作られています。
BRUNELLO CUCINELLI https://shop.brunellocucinelli.com/ja-jp/
BURUNELLO CUCINELLIの他のラグジュアリーブランドとの大きな違いは、創業者でありデザイナーのクチネリ氏自身が掲げる企業哲学の中にあります。彼は、誰に対しても無理な負担がなく尊厳を損なうこともなく利潤を生みだし、人間生活の質を具体的に向上させるため、収益の一部をあらゆる行動に活用していく‘人間主義的資本主義’という理想を追求し、その理想を持つ企業を‘人間主義的企業’と定義しています。つまり彼の目指す人間主義的企業とは、会社として経済的な利益を追求することを一番の優先事項とするのではなく、そこで働く人々の人間としての尊厳、つまり質の高い労働条件を守りながら事業展開をしていく企業を指します。
実際に彼は、“人間性を損なわないように行動することが大切なのです。私は利益を生み出すことは、事業の本質的な部分であると理解していますが、それは最も大切なことではない。お金というものは、人々の成長と生活をより良くするために使われてこそ、初めて本当の価値を持つ。これが私の最終目的です。”と語っています。このような考え方は、資本主義社会の中で企業を長期的に存続させていくためには必要不可欠な考え方であるといえるでしょう。この人間主義的企業の追求という企業理念が根本にあったからこそ、BURUNELLO CUCINELLIはアパレルブランドとして大きな成功を収め、今も歩み続けているのです。
(出典: BURUNELLO CUCINELLI SpA, La Mia Vita https://www.brunellocucinelli.com/it/my-life.html)
現在、BURUNELLO CUCINELLIは世界で約1,500名もの職人を雇用しているとされており、本部が置かれたソロメオ村では約1000名の職人が生活しています。職人の割合は総従業員数の3分の2を占めるといわれ、創立者クチネリ氏にとって何よりも大切な存在であり、家族であり、仲間でもあります。BURUNELLO CUCINELLIでは、職人達は単なる下請けの作業員ではなく、敬意を込めてイタリア語で‘職人達’を意味する‘Artigiani’と呼ばれています。また呼び方だけではなく、BURUNELLO CUCINELLIの職人達の給料は一般職よりも2割以上高く設定されています。それはクチネリ氏が自社の製品のクオリティを支えている職人達の存在をいかに重要視しているのか、そして職人達に自分の持つ技術や仕事に対しての誇りを持ってもらいたいという気持ちの表れでもあります。実際に彼は“会社の利益を抑えてでも、従業員に仕事に見合った給料を支払うことで、製品の質は維持され、結果的に会社の成長につながる”と言っています。BURUNELLO CUCINELLIの今日までの実績が彼のこの言葉を裏付けています。
そしてクチネリ氏は2010年に職人の伝統と技術を後世に受け継ぐために、職人を育成する職人技術学校をソロメオ村に開校しました。授業内容は昔からの工房に倣い、熟練の教官による実技の指導が行われています。学校には、アパレルパタンナー科、レディーステーラリング・ドレーピング科、メンズテーラリング・ドレーピング科、ニット製品の修理・補修科、食料栽培科、庭園管理課、壁画芸術科があります。クチネリ氏はこの職人学校について次のように語っています。“このような授業に通い、週に5日仕事をして報酬を受けることにより、多くの若者たちが芸術として職人技術の本当の価値を理解・評価し、 情熱をもって仕事に取り組み、愛すべき自分の仕事を誇り高く話すことができるようになると信じています。これは彼らの利点となるだけではなく、我が国イタリアの職人技術の輝かしい復興につながり、仕事における精神的・経済的な尊厳を取り戻すことに大きく貢献するでしょう。”
(出典:BURUNELLO CUCINELLI SpA, La Scuola di Arti e Mestieri di Solomeo https://www.brunellocucinelli.com/ja/the-origins.html)
カシミヤとは、カシミヤヤギから採取した動物繊維のことで、保温性、保湿性に優れており、ウールなどと比べて軽量で非常に柔らかい肌触りで高価であるという特徴が挙げられます。ブルネロ・クチネリはカシミヤについて次のように述べています。“カシミヤは、ビロードのようにソフトな肌触りだけでなく、長持ちする点も重要な特性であることを確信しました。長持ちするという概念は 私の世界観の一部でした。これには非常に優れた意味があり、その時から、会社の表象的・生産的なあらゆる考え方をこの概念に集中させました。カシミヤの服は一生ものです。捨てられることなく、代々引き継がれるべきものであり、寿命の長さがカシミヤの価値を象徴しています。”
(出典:BURUNELLO CUCINELLI SpA, Il cashmere https://www.brunellocucinelli.com/it/cashmere.html)
今でこそカシミヤのニットはハイブランドからファストファッションブランドまでが取り扱う素材となりましたが、以前の大量生産・大量消費が目まぐるしい速さのサイクルで繰り返されていたファッション業界では、コストが高く大量生産に向かないカシミヤは扱いやすい素材とは到底言えませんでした。そんな中、クチネリ氏はカシミヤという素材の価値に、ブランド創業当時からいち早く注目していました。彼が創業当時から職人達と作り上げていたカシミヤのニットは、今ではBURUNELLO CUCINELLIのブランドを象徴する製品の一つとなっており、イタリアでは彼の功績を讃えてクチネリ氏は’il re del cashmere’ (カシミヤの王)と呼ばれています。
パンデミックの中、アパレル製品に対しての人々の価値観も変わりつつあります。アパレル企業は大量生産、大量消費の流れを見直し始め、消費者はより長く心地よく身につけられる製品に目を向け始めています。手入れをすることで一生身につけることのできるBURUNELLO CUCINELLIのカシミヤのニットは、正に今の時代に合った製品の一つといえるでしょう。
2021年2月24日にBURUNELLO CUCINELLIはFALL WINTER 2021 のコレクションを発表しました。今回のコレクションは特にニットウェアに焦点が当てられています。かぎ針編みされたオーバーサイズのニットは手編みで丁寧に編まれた大小様々なモチーフが組み合わされており、またダウンジャケットはとても軽いカシミアを用いて作られています。柔らかくニュートラルな色合いのダブルカシミアのシティコートは、カジュアルな要素もありつつ、クチネリのエレガントさと高い品質が見て取れます。クチネリ氏は今回のコレクションについて、次のように語っています。“このコレクションは新しい段階へ進むためのリニューアルの意味を取り入れています。それは現在の世界情勢からの盲目的な希望を探求しているのではなく、何れ必ず訪れる建設的な希望への前進です。人々は、再び自由に気兼ねなく、エレガントで洗練された装いを楽しめる日を心待ちにしているのです。”
(出典: VOGUE UK https://www.vogue.com/fashion-shows/fall-2021-ready-to-wear/brunello-cucinelli)
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